「良かれと思って」が経営を傾ける ― 福祉現場で本当に起きていること

保育・介護・障がい福祉の現場を回っていると、驚くほど頻繁に同じ種類の「事件」に出会います。誰かが悪意を持ってやったわけではない。むしろ、現場のことを一番よく考えていた人が、良かれと思って下した判断がきっかけだった、というケースがほとんどです。

私は三菱UFJ銀行で約10年間、法人融資の担当として数多くの中小企業の決算書と向き合ってきました。そして今は、保育園・児童発達支援事業所を運営するNPO法人の理事として、現場の意思決定にも関わっています。その両方の立場から見えてくるのは、「福祉の現場力」と「経営の視点」が、しばしば別々の場所に置かれたままになっているという現実です。

ケース1: 「まとめて直した方が安いから」という修繕

ある施設で、老朽化した設備の一部に不具合が出ました。現場の担当者は「どうせなら周辺もまとめて直した方が、後で二度手間にならないし結果的に安い」と考え、当初の想定より大きな範囲の修繕を独断で発注しました。判断そのものは、現場感覚としては十分理解できるものです。

ところが、年度の修繕予算や資金繰りの見通しと照らし合わせずに実行してしまったため、期中に想定外の支出が発生し、他の必要な支出を圧迫する事態になりました。「今、この場で最も合理的に見える判断」が、「1年間の資金計画」という一段上のレイヤーでは最適ではなかった、という典型例です。

これは現場の担当者が悪いのではありません。修繕という現場の意思決定と、年間の予算・資金繰りという経営の意思決定が、同じテーブルで検討される仕組みがなかったことが本当の原因です。

ケース2: 「みんな大変だから」で変わってしまう労働条件

もう一つ、よくあるのが労働時間まわりの話です。人手が足りない時期、現場のリーダーが「みんな大変な時期だから、少しシフトの時間を延ばして乗り切ろう」と、契約や就業規則で定めた範囲を超えて労働時間の運用を変えてしまうことがあります。

これも動機は極めて真っ当です。目の前の子どもや利用者のケアを止めるわけにはいかない、という現場の責任感の表れです。しかし契約範囲外の労働時間の変更は、労務リスクとして法人に跳ね返ってきます。良かれと思ってした対応が、後になって職員との信頼関係や、行政対応上のリスクという形で現場を苦しめることになるのです。

二つのケースに共通すること

どちらのケースも、「現場を良くしたい」という気持ちが出発点にあります。問題は気持ちの方向ではなく、その判断を経営の視点(予算、資金繰り、労務コンプライアンスといった「数字とルール」の視点)でチェックする仕組みが、現場に備わっていなかったことです。

福祉の仕事は、本来「人のために」という強い動機を持つ人が集まる仕事です。だからこそ、その動機の強さがそのまま現場の暴走に繋がらないよう、経営の基礎知識を現場のリーダー自身が持っておくことが、実はとても重要になります。

経営を学ぶことは、現場を守ること

「経営を学ぶ」というと、どうしても法人のトップや事務方だけの仕事だと思われがちです。しかし私自身が保育・障がい福祉の現場を運営するNPO法人の理事として現場に関わる中で強く感じるのは、経営の基礎(決算書の読み方、資金繰りの考え方、労務の基本ルールなど)を現場のリーダーが知っているかどうかで、こうした「良かれと思って」の判断の質が大きく変わる、ということです。

フクマナは、まさにこうした「現場のリーダーが最低限知っておくべき経営知識」を、隙間時間で学べる形にしたeラーニングです。次回は、こうした失敗を防ぐために、現場で具体的にどんな「数字の見方」を身につけておくとよいか、という話を書いてみようと思います。

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